仙台高等裁判所 昭和32年(う)364号 判決
次に、職権をもつて調査するに、原判決が被告人に対し認定した罪となるべき事実は、昭和二九年始頃から昭和三〇年九月一五日頃までの間における丸山文男及び新山晴雄との共謀による偽造にかかる自動三輪車運転免許証行使の事実であるが、原判決が箇々の行為を確定しないで包括的記述方法に従つて事実を判示し、これに対し刑法併合罪に関する規定を適用していないことから察するに、原判決は右行為を包括一罪と解したものと認められる。ところで、原判決は、被告人は昭和二六年八月九日横浜地方裁判所において物価統制令並びに食糧管理法違反罪により懲役八月(昭和二七年政令一一八号により懲役六月に減軽せらる)に処せられ、控訴及び上告がいずれも棄却せられて昭和二九年五月一八日確定し、前記偽造免許証行使の所為を終了する以前において右刑の執行を受け終つた旨認定し、右所為に対し再犯の加重をして処断刑を定めたうえその範囲内で刑の量定をした。原判決の引用証拠によれば、右前科並びに受刑の事実は疑がない。しかし、再犯例の適用については、包括一罪もまた一罪である以上単純一罪と別異の取扱をすべき理由はない。従つて、包括一罪を再犯として処断するためには、前刑の執行を終了した日より五年内に該犯罪に着手したことを要し、而してその構成部分である最初の行為に着手したときにおいて全体としての着手があつたものと見るのが相当であるから、その最初の行為に着手した当時前刑の執行を終了していなかつたときは、たといその後の行為当時前刑の執行を終了したとしても、全体として再犯の要件を具えるに至つたものと解することはできない。然るに、本件犯行の行われたのは前説示のとおり昭和二九年初頃から昭和三〇年九月一五日頃までの間であつて、その中間において前刑の執行が終了したとはいえ、その最初の行為に着手した昭和二九年始頃にはその刑を言い渡した判決の確定さえも見るに至らなかつたのである。従つて、原判決が本犯行を再犯と認めてこれに対し刑法五六条、五七条件を適用して刑の加重をしたのは違法である。
おもうに、原判決が被告人の犯行全部を包括一罪と解したことにすでに誤がある。独立しても犯罪たりうる数箇の行為を包括一罪として処断するための要件は必ずしも明らかではないが、同一の社会的事情の下において、意思を継続し、同一構成要件に該当し同一法益に向けられた同一態様の数箇の行為を、日時を接し連続的にくり返したような場合で、各箇の行為を箇別的に評価するよりは総括的に評価する方が社会観念に適合するものと認められるときは、これらを包括して一罪と観念するのが相当であろう。本件についてこれを観るに、山村藤雄(被告人と同一人であることは後段自判の部証拠の標目の項参照)の司法警察員に対する昭和三一年一〇月二九日付供述調書、被告人の検察官に対する供述調書、原審第三回公判調書中被告人の供述記載、山村藤雄あて自動車運転免許証一通(証一号)及び被告人に対する前科調書を綜合すれば、被告人は、昭和二九年始頃から連日のように山形県東置賜郡高畠町、赤湯町等において、青果物営業のため偽造免許証を携帯して軽自動二輪車を運転していたが、その後同年五月一八日に至りさきに横浜地方裁判所で物価統制令及び食糧管理法違反の罪により言渡を受けた懲役八月の刑(昭和二七年政令一一八号により懲役六月に減軽せらる)が確定しその頃から右刑の執行を受け、約四箇月半服役して同年一〇月中に仮出獄を許されて出所し、その頃から仮出獄期間経過後の昭和三〇年九月一五日頃(免許証書換の時)まで引き続き、前同所において同様営業のため右偽造免許証を携帯して軽自動二輪車を運転していたことが認められる。(原判決はこの外に被告人が山形県公安委員会に定期検査のため右偽造免許証を提出して行使した事実を判示しているが、右は訴因として構成された事実とは全く態様を異にする事実であるから、原判決のように訴因追加の手続を経ることなし直ちに右事実を認定することができるものと解するについては議論の余地がある)。すなわち、昭和二九年始頃から昭和三〇年九月一五日頃までの間の偽造免許証行使の各所為の中間に確定判決があり、しかもそれに引き続く約四箇月半の刑の執行による空白期間が存在するのである。而して、右確定判決及び刑の執行期間前の一群の行為とその後の一群の行為との間に意思の継続並びに行為の連続性を認めることが困難であるから、両者をそれぞれ別箇の包括一罪と見るのが相当であつて、原判決のようにそれら全部を総合して一箇の包括一罪と解すべきものではない。
なお、本件の罪数につき叙上の見解を採つた場合に前記確定判決の刑の執行との関係における再犯例の適用の有無を考察するに、前の包括一罪は右確定判決前従つてその刑の執行前に犯した犯行であるから再犯の要件を具えていないことはいうまでもなく、後の包括一罪も、その最初の行為に着手した当時はまだ右確定判決の刑につき許された仮出獄の期間が経過していなかつたのであるから、同様再犯の要件を具えていないことが明らかである。従つて、本件については再犯の規定を適用すべき余地は全くないわけである。
以上の次第で、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。
よつて、刑訴法三九七条三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所は次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
被告人は肩書住居において青果物商を営む者であるが、昭和二八年八月頃、当時国家地方警察山形県本部警ら交通課に勤務していた警察書記新山晴雄が原審相被告人丸山文男の依頼により自動車運転免許を受ける資格のない被告人に行使させる目的をもつて同課の保管にかかる山形県公安委員会の記名のある自動車運転免許証用紙を利用し同本部秘書企画課の保管にかかる同委員会の印章を冒捺して作成した自動三輪車運転免許証一通(山村藤雄―被告人を指す―あてのもの)を所轄警察署を経由して受け取り、右免許証が偽造のものであることを知りながら、右両名と共謀のうえ
一、昭和二九年始頃から同年五月中旬頃までの間引き続き、山形県東置賜郡高畠町、赤湯町等において、右偽造免許証を携帯して営業用軽自動二輪車(ホンダドリーム号一五〇CC)を運転し、
二、同年一〇月頃から昭和三〇年九月一五日頃までの間引き続き、前同所において、右偽造免許証を携帯して前記軽自動二輪車を運転し、
もつて、偽造の公文書を行使したものである。
(法令の適用)
被告人の判示一、二の各所為はいずれも刑法一五八条一項一五五条一項六〇条に該当するところ、一の罪は前示確定裁判のあつた罪と同法四五条後段の併合罪の関係があるから、同法五〇条により処断することとし、犯罪の情状憫諒すべきものがあるので、同法六六条七一条六八条三号により各罪につき酌量減軽をしてそれぞれ懲役六月以上五年以下の範囲内で量刑し、結局二箇の刑を科すべきこととなる。ところで、本件は被告人の控訴及び原審弁護人が被告人のためにした控訴にかかり、原判決が一、二の各罪を包括一罪と見て量定した一箇の懲役六月の刑より実質的に重い刑を言い渡すことができないのであるが、当審において原判決の一箇の刑を二箇の刑に変更しても、後者を合算したものが前者を超えなければ、右禁止に触れないものと解するのが相当であるから、被告人を一の罪につき懲役二月に、二の罪につき懲役四月に処し、原審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとし主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 板垣市太郎 裁判官 斎藤勝雄 裁判官 有路不二男)